水フィルター

中東など水不足の地域で建設が相次ぐ海水淡水化施設。その心臓部とも言える「水処理膜」で、日東電工や東レなどの日本企業は高い世界シェアを有するが……。 

 

「もし海水から新鮮な水を安価に取り出せるようになれば、他のあらゆる科学的業績をもしのぐ偉業となろう」。かつてジョン・F・ケネディ元大統領はそう演説し、海水淡水化技術を国家事業として推進した。それから40年。彼の描いた近未来が、今まさに現実となっている。

 

中近東やアフリカなど日頃水不足に悩む国々が、海水淡水化プラントの建設を加速させている。そして海水から塩分を取り除く、根幹の役割を担うのが「膜(フィルター)」だ。

 

使用されるのは「逆浸透膜」という複数ある水処理膜の中でも最も目の細かいもの。20リットルの海水に入っている塩分は、これに通すとスプーン1杯(1・5グラム)にまで濾過できる。穴の大きさはわずか1000分の1ミリ、電子顕微鏡を使っても穴が空いているのかどうか確認はできない。

 

その逆浸透膜で目下、世界をリードしているのが日本企業である。調査会社推計によれば、日本の主要な膜メーカーである日東電工、東レ、東洋紡の合計シェアは5割に達する。

 

膜は水処理装置のパーツなので市場規模は約600億円(09年推計、脱塩用と産業用の高性能膜のみ対象)と大きくはないが、世界の水関連産業の中で、日本勢が大きな存在感を有する唯一の分野と言っていい。

 

来2011年、造水量で世界第1位と第2位の海水淡水化プラントが立て続けに稼働する。水処理膜を納入するのは、いずれも日本のメーカーだ。

 

世界最大のプラントが予定されるのはアルジェリアの北西部マグタ。1日当たりの造水量は50万トンで、約200万人分の生活用水を供給できる。同施設の膜を全量受注したのが東レだ。実はこのプラントの建設に当たって、発注者のアルジェリア政府側が特殊な要求を突き付けてきたという。

 

それは「塩分除去だけでなく海水に含まれるホウ素を除去してほしい」というもの。ホウ素は柑橘類の立ち枯れ病の原因とされ、柑橘類栽培がさかんなアルジェリアにとっては切実な要求だった。

 

しかし水処理膜メーカー各社は頭を抱えた。なぜならホウ素は水の分子と同じくらい小さく、逆浸透膜ですら除去が難しいからだ。東レ以外の他社は一度水処理膜で処理した水をさらに逆浸透膜で濾す2段方式を提案した。これならばホウ素の除去も可能だが、導入コストも二重に膨らんでしまう。

 

一方で東レは、濾過後のホウ素濃度を従来の半分に減じることができる専用水処理膜を開発、従来どおり1段の逆浸透膜処理を提案し受注につなげた。水処理・環境事業本部の阿部晃一本部長は「膜に対する顧客ニーズは単に安さだけではなく、今後は有害物質の除去機能にも及んでくる。そこでも技術力が差別化の源泉になる」と言う。

 

世界第2位となるのは豪ヴィクトリア州の海水淡水化プラント。造水量は一日44万トン、同州メルボルンの年間給水量の3分の1を賄える。逆浸透膜を納入するのは日東電工だ。

 

 菊岡稔・メンブレン事業部長は「米国の本部が有する広範な人脈・営業ネットワークが功を奏した」と説明する。一般に海水淡水化プラントを建設する場合、発注者側がそのノウハウを持っているケースはごくまれだ。したがって実際の建設に当たっては、水処理のコンサルタント会社が政府や自治体から仕事を請け負って水処理プラントの計画を進めるのが通常である。

 

膜メーカー側にとっては、いかにこうした水処理コンサルタント会社と密接な関係を築いているかが重要になる。

 

この点、日東電工に優位に働いているのが、実質的に水処理事業の中枢を担う米国子会社ハイドロノーティクス社の存在である。1987年に買収したこの水処理膜メーカーは、米国だけでなく世界の水コンサルタント会社と広範なコネクションを有している。

 

「水ビジネスは一見グローバルに見えるけれど個別の案件はかなりローカル。各地での密接な関係構築が欠かせない。20年以上の水処理膜事業の中で、われわれにはその蓄積がある」(菊岡部長)。

 

ローカルに根を張ったビジネスといえば東洋紡にも定評がある。同社の水処理膜売り上げ(推計数十億円)のうち大半が中東向けで、同市場では5割ものシェアを有する。

 

東洋紡の名が同地に定着していない約20年前から、デモンストレーション用の水処理プラントを積み込んだトレーラーでアラビア半島の顧客を駆け回り効果をアピール。ドブ板式の「トレーラー営業」で、現地の評判を固めていったという。

 

高い技術力、強力な営業ネットワークで先行する日本企業。しかし問題は、市場が拡大する中で今後もこの優位性が続くのかどうかだ。

 

水処理膜は参入障壁が決して高いわけではない。今の業界標準であるポリアミド型逆浸透膜の基本特許は79年に米国の政府系機関研究者によって出願され、99年にすでに満期を迎えている。半導体のように1工場1000億円単位の大掛かりな設備投資が必要なわけでもない。

 

日東電工は09年滋賀県に逆浸透膜の新工場を建設して生産能力を1・6倍に高めたが、それにかかった投資金額も60億円程度で済んだ。

 

逆浸透膜より目が粗く、技術レベルが低いUF(限外濾過)膜・MF(精密濾過)膜のような製品にはすでに100社超のメーカーがひしめいていると言われ、日本企業のシェア合計も3割程度にとどまる。

 

それに比べると逆浸透膜はまだ数社の寡占的市場であり、競争圧力は強まってはいない。しかし、それも時間の問題と言えるかもしれない。

北京に急成長の新興企業 欧米企業は膜で買収攻勢

 

有力な新興逆浸透膜メーカーのうち1社が中国北京にある。「5~10年のうちに、世界トップ3入りすることが目標」。そう野心を燃やすのは、中国系で最大の逆浸透膜メーカー、ヴォントロン・テクノロジー社(以下、ヴォントロン)の蔡志奇CEOである。

 

同社の設立は00年末。米国からの技術導入によって開発を進めつつ、04年より逆浸透膜の本格的な量産を開始した。以後、現地自治体の給水処理や海水淡水化施設、飲料メーカーの純水製造用に受注を積み重ねて業績は急成長中。創業以来の売上高の平均成長率は年40%に上るという。

 

中国市場でのシェアは8インチ型で6~8%、4インチ型で約3割を占める。「少なくとも中国市場では世界の競合に決して引けを取っていない」(蔡CEO)。それはある意味で当然な背景がある。ヴォントロンの株主構成は国有の鉄道用車両会社が42%、政府系研究所が38%を握る。水処理施設のようなインフラ需要を取り込むには、この“国営色”はどうあっても強い。

 

詳細は非公表とするがヴォントロンはすでに複数の国家・省級のプロジェクトを引き受けたようだ。中国国内の水処理膜メーカーの中で、ヴォントロンの技術は卓越している。

 

研究開発チームに多くの博士取得者を擁し、いくつかの型番の逆浸透膜については99・8%の脱塩率を達成しているという。この99・8%という数字は、ちょうど世界第2位の日東電工が公表する逆浸透膜の脱塩率と同じ水準である。

 

欧米諸国に目を転じると、今度は巨大企業が豊富な資金力を武器に次々と膜メーカーを買収し、事業展開を加速させている。米GEは00年以降、二つの大手膜メーカーを買収した。

 

逆浸透膜の老舗だった米オズモニクス社を03年に、06年にはUF膜・MF膜で世界首位だった米ゼノン社を約7億ドルで取得した。独電機大手のシーメンスは04年5月にアメリカの水処理膜大手のUSフィルター社を仏ヴェオリアから10億ドルで取得し、水処理ビジネスへの本格参入を表明した。

 

東洋経済

https://toyokeizai.net/articles/-/5104?page=5

 

 

 

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