兵庫県に拠点を置く古野電気株式会社は、知る人ぞ知る魚群探知機の世界的な老舗企業だ。
今、同社は従来のビジネスに加え、新しい事業に取り組んでいる。一例が多言語対応型のETC車載器だ。
そうした新規事業への取り組みの背景には、韓国、中国、台湾などからの訪日外国人の増加がある。
訪日外国人の増加に伴い、レンタカーを使う外国人観光客が急増し事故も多発している。政府、地方自治体は英語標識の増設、ステッカー配布により交通ルールの遵守を呼び掛けている。
レンタカー企業も事前説明を徹底してはいるが、抜本的な解決には至っていないようだ。
もっとも重要なポイントは、事故発生のリスクを低減させることだ。
具体的には、ICT技術(情報・コミュニケーションに関するテクノロジー)を活用し、どこで外国人観光客が運転するレンタカーの事故が多く発生しているか、彼らの運転に共通する特徴などを把握することが求められる。
その上で、外国人にも理解しやすい交通標識を増やせば効果はあるだろう。
突き詰めていえば、より精度の高い位置測位へのニーズが高まっているということだ。
事故防止だけでなく、自動車や農機、船舶の自動運転にも精度の高い位置測位のテクノロジーが必要だ。
そのための受信チップなどを開発して需要を取り込むことが、古野電気の成長を支えるだろう。
魚群探知機の老舗企業=古野電気
古野電気は世界で初めて魚群探知機の実用化に成功した。第2次世界大戦後、同社は軍の放出物資であった音響測深機の技術を応用し、魚群探知機を開発した。
魚群探知機の開発は、世界の漁業に革命をもたらしたといってよい。なぜなら、魚群探知機の開発によって、どの深度に、どの程度の規模の魚群が存在しているかをデータとして把握することができるようになったからだ。
その後、古野電気は探知に関するテクノロジーを応用して、船舶用のレーダーを開発し、陸上用の機器開発にも取り組んだ。
1970年代に入ると、同社は積極的に海外進出を進め、世界的な船舶用電子機器メーカーとしての基盤を固めていった。世界の船舶用電子機器市場において、同社は15%の市場シェアを占めるトップ企業だ。
2019年2月期の第2四半期決算に関して、同社の連結売上高は412億円だった。うち、舶用事業の売上高は331億円(売上高の80%)を占める。
これに加え、通信およびGNSS(全地球航法衛星システム)などを手掛ける産業用事業の売上高は58億円(同14%)、その他の部分を無線LAN・ハンディターミナル事業などが占める。
売上高の構成という点では、舶用事業の重要性が圧倒的に高い。一方、売上高の増加率では、舶用事業は伸び悩んでいる。対照的に、通信およびGNSS事業の売上高は増加している。
この基本的なデータからいえることは、同社にとって通信およびGNSS事業は、舶用事業に次ぐ収益の柱になる可能性があるということである。
船舶向けの機器需要は世界経済の動向に左右されることが多い。今後の展開を考えると、世界全体の船舶需要が高まるとは考えづらい。
特に世界中から素材・資源を購入してきた中国では、景気の減速懸念が高まっている。それは、海運市況にマイナスだ。
そう考えると、古野電気は新しい事業に取り組み、収益源の多様化と安定化を図るべき局面を迎えていると考えられる。
外国人観光客の増加
古野電気にとって、わが国を訪れる外国人観光客が増えていることは、新しい収益源を手に入れるための追い風といえる。
韓国、中国、台湾などからの外国人観光客が増加したことに伴い、外国人によるレンタカー利用が急増している。
やや古いデータだが、国土交通省によると11年から15年までの4年間でレンタカーを利用する訪日外国人数は18万人程度から70万人程度へ4倍増加した。
わが国でライドシェアが規制されていること、人口減少によって地方でのバスや鉄道の運行数が縮小されているなか、外国人観光客にとってレンタカーは便利な移動手段だ。
それに伴い、訪日外国人が使うレンタカーによる事故も増加している。
事故の原因は複数ある。スピードの出し過ぎ、韓国や中国では右側通行であること、標識の違いなどだ。
また、各国の運転免許制度の違いにより、国によって交通安全への意識にもかなりの違いがある。
そうした問題に、レンタカー運営会社の説明などで対応していくことは難しいだろう。
あらかじめ、事故の多い場所、あるいは急ブレーキが多くかけられた場所を特定し、事故のリスクを低減させなければならない。そのためには外国人観光客の運転データが必要だ。
運転と場所に関するデータを集めることは、古野電気の技術転用が期待できる分野だ。昨年、同社はスマートGPSを開発した。
この機器は、タクシーなど業務用に使われるタブレット端末に接続することで、カーナビと同水準の位置測位を行うことができる。
12月に古野電気が発売を予定している多言語対応型のETCユニットなどと併用することで、外国人のレンタカー利用客に関するデータを収集することができるだろう。
その上で、ETCシステムに用いられているセンサーとレンタカーに搭載されている位置測位システムなどを連動させることで、事故多発区間に近づいたことなどをドライバーに通知することができるだろう。
その技術の実用化は、未然に事故を防ぐことにつながる。
その意味で、外国人観光客によるレンタカー利用の増加は、高精度の位置測位テクノロジー開発とその実用化を進めるチャンスといえる。
それだけでなく、高齢者による高速道路の逆走による事故を防ぐなど、同社のテクノロジーが応用できる分野は広いと考えられる。
はっきりといえることは、より高精度の位置測位への需要は高まるということだ。この変化は、古野電気にとってチャンスだ。現状、同社の経営陣もその認識を持ち経営戦略を執行していると評価できる。
それを示すひとつの取り組みがある。昨年11月、古野電気は日立造船やデンソーが共同出資して設立したグローバル測位サービス株式会社(GPAS)に出資した。
GPASは準天頂衛星である“みちびき”を用いた位置情報サービスの提供を目指している。
日本版GPSと呼ばれるこの位置情報システムは、米国の運営するGPSとの併用によって、より高い精度での位置測位を可能にすると期待されている。
また、船舶分野でも自動運転技術の導入が目指されている。22年度にも船員による直接の操作がなくとも船舶を運航させることができるよう、政府は関連法案の改正を目指している。
その背景には、海難事故の8割が、人為的な要因によって発生していることがある。当該分野でも、古野電気は従来の経験や技術を応用できるだろう。
その他、外国人観光客の足として注目されているライドシェアの運行と管理に関する分野でも、同社のテクノロジーは重要な役割を担うはずだ。特に、犯罪抑止の観点から、正確に車の位置を把握することは欠かせない。
古野電気は、魚群探知機の世界的な老舗として世界の船舶向け電子機器市場で存在感を示してきた。
今後同社に必要なことは、既存のテクノロジーと新しい要素(発想、技術など)を結合し、高精度の位置測位への需要を取り込んでいくことだ。
産業用事業を中心に、同社がどのようにして新しい取り組みを進め、新商品を開発するか興味深い。
Business Journal
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