東京水道は「世界一」のシステムで海外市場に挑む!
東京水道が世界に冠たるシステムであることは、数字が証明している。川や湖などから蛇口までの間に水が漏れる漏水率は、わずか3.1%。途上国は言うに及ばず、ロンドンやパリでさえ、それは20%程度の水準である。
加えて、料金徴収率は99.9%に上る。飲料水がすぐに手に入り、その対価を受け取る事業が成り立つというのは、世界的に見れば例外に近い。
水道使用量は、電力と同じで、ピークがあればボトムもある。ごく短時間に急激な変動をきたすこともある。
例えば2011年1月29日深夜(30日未明)0時から約3時間、普段ならほぼ一直線に右肩下がりになる時間帯に、東京都の配水量は乱高下した。
カタールで開かれていたサッカーアジアカップ決勝、日本対オーストラリアのテレビ中継が原因だ。
キックオフと同時に、配水量は急速に減る。多くの人がテレビにかじりついていて、水を使う「余裕」などない。
ところが前半終了直後、わずか数分間に毎時3万立方メートル近く、一気に急上昇した。こぞってトイレに立った結果であろうことは、想像に難くない。
結局、延長の末に日本が勝ったこの試合では、後半終了直後に高い山、延長前半終了後に低い山、放送終了後にまた高い山が現れた。
最後の山は、勝利に満足しつつ風呂に入ったり、歓喜の乾杯を繰り広げたりした結果だと思われる。
ともあれ、ハーフタイムにトイレに立った人はみな、コックをひねれば流れるのは当たり前だと、水のことなど気にも留めなかったはずだ。
しかし、実はまったく「当たり前」ではない。サッカー国際試合中継の時のような「非常事態」はそうそうないものの、水道使用者のライフスタイルに合わせて、時々刻々、今この瞬間も配水量は調整されている。
きめ細かな調整が齟齬(そご)をきたせば、「蛇口からいつでも水が出る」状態は維持できなくなってしまう。
東京水道は、およそ1300万人の利用者に水を供給する。単一のエリアとしては、世界最大規模で、埋設された水道管の長さは地球半周分。
それがあたかも人体の血管のごとく張りめぐらされ、大動脈から枝分かれし、最後は毛細血管に当たる水道管まで水を行き渡らせるわけだ。
もしポンプが十分稼働しなければ、末端まで届かない。逆に需要がないのに圧をかけすぎたら、どこかで水道管が破裂するだろう。
漏水率3%のすごさ
こうした調整を集中制御しているのが、文京区本郷にある東京都水道局水運用センターだ。
ここではダムの貯水量や、気象情報、さらには冒頭に述べたようなイベントも含めた需要予測に基づき、水量・水圧の安定化を図っている。
ちなみに、安定供給には最新鋭のコンピューターシステムだけでなく、昔ながらの“人間力”も貢献している。
使用量の少ない夜中にエリアを区切って水道管を閉め、地上から「聴診器」(音聴棒)で音を聴く。それだけで漏水箇所を見つけるベテランが、水道局にはいるのだ。
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