「クオーツ時計」とは、電圧を加えると正確に振動するクオーツ(水晶)の性質を生かした時計です。
1927年にアメリカでマリソンが発明し、日本では1937年に古賀逸策が国産第一号のクオーツ時計を開発しました。
従来の振り子やテンプの代わりに、水晶振動子の正確な振動数を時間の基準にすることで、格段に精度を高めることができました。
セイコーはクオーツ時計の小型化・実用化に取り組みます。1958年に放送局用水晶時計を開発し、1959年に納入していますが、大型ロッカー並みのサイズで、腕時計サイズにするには体積で
30万分の1にする必要がありました。同年、社内にプロジェクトを発足して、テンプ駆動式・音叉時計・クオーツ時計など各方式の研究に取り組みました。
最も開発難易度は高いが、最も精度の高いクオーツ方式を将来の本命技術と定め、その開発に集中していきます。
1960年、セイコーは1964年開催の東京オリンピックで公式計時を担当する意思を固め、オリンピック用の卓上型クオーツ時計の開発に拍車がかかります。
卓上型の一号機が完成したのが1962年、以降改良され1964年にクリスタルクロノメーターが発売され、東京オリンピックで親時計として活躍します。
1966年に懐中型、1967年に腕時計のプロトタイプが完成。直ちに1960年代での商品化方針が打ち出され、開発が一気に加速しました。
そして、1969年12月25日に世界初のクオーツ腕時計「セイコークオーツアストロン35SQ」を発売します。価格は45万円と当時の大衆車と同等の価格でした。
それまで一般の高精度な機械式腕時計で日差数秒から数十秒が当たり前であった時代に、日差±0.2秒、月差±5秒という飛躍的な精度の向上を実現しました。
この開発によって特許権利化した技術を公開したことで、クオーツ腕時計は劇的に普及します。小型・低消費電力で耐衝撃性に優れた「音叉型水晶振動子」、省電力化するため秒針を1秒刻みにした「ステップ運針」、コイル、ステータ、ロータを分散配置して省スペース化を可能にした「オープン型ステップモーター」。
これらの技術を採用したセイコー方式は、世界標準となりました。ちなみに、クオーツアストロンの水晶振動子の振動数は8,192Hzでしたが、その後のクオーツ時計は32,768Hzの振動が標準となっています。
セイコーは、その偉業がIEEE(米国電気電子学会)に認められ、革新企業賞(2002年)とマイルストーン賞(2004年)をダブル受賞しています。
また、クオーツアストロンは、米国スミソニアン博物館に永久展示され、2014年には日本の機械遺産に認定されました。2018年には、独立行政法人国立科学博物館が認定する2018年度「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」にも登録されています。