安岡正篤 一日一言

(明治31年~昭和58年) 陽明学者・思想家

歴代首相の指南役で、第二次世界大戦中には大東亜省顧問として外交政策などに関わり、終戦を告げる天皇のラジオ放送、詔書発表(玉音放送)に加筆して原稿を完成させたことで皇室から厚い信頼を受けていました。現在の元号である平成の隠れた名付け親(*1)、昭和の教祖とか、昭和の吉田松陰とまでいわれた人です。

 

安岡正篤氏は金鶏学院を設立したり、財閥の出資で日本農士学校などを創設して啓蒙活動を盛んに行い、多くの華族や軍人、政治家、財界人などから心酔者を出しました。大学生時代に執筆して卒業と同時に出版した”王陽明研究” は当時一世を風靡しただけではなく、今日でも古典的な名著として知られています。

安岡氏の逸話には枚挙に暇がなく、徴兵検査の時に居合わせた連帯区司令官に、王陽明研究という本の著者は縁者であるかと聞かれ、本人であると答えて司令官が腰を抜かさぬばかりに驚いたり、大学を卒業して間もない頃に38歳も年上である八代六郎将軍(海軍大将・海軍大臣)との酒の席での議論に勝ち、八代将軍から先生と呼ばれることになりました。

 

八代将軍とのお話は、自宅の夕食に招かれた安岡氏が、酒豪で博学熱烈な八代氏と二人で1升瓶の酒5升を飲み干して、何時間も続く談話をしていた終盤に起こりました。八代将軍の陽明学に関するお話を緊張した面持ちで聞いている安岡氏は、お話に少し間違った点があることに気がつきました。そしてそれを安岡氏が遠慮がちに申し出たところ、夜も12時を過ぎているにもかかわらずに議論がさらに白熱してしました。

ですが高齢の八代将軍の身体に気を遣った奥方がそれをとめてその場の議論は終わりとなりました。そして八代将軍の提案で、お互いに意見の正否を再考して1週間後にまた会おうということになったのです。1週間後に再開した時、自分の間違いに気がついた八代将軍がその誤りを認め、これからは君の弟子になると申し出たそうです。

 

69連勝という3年間にも及ぶ連勝記録が本日現在まで誰にも破られていない横綱の双葉山にも慕われていました。70勝目をかけた勝負に敗れた時に双葉山は、ヨーロッパに向かう船上にいる安岡氏に友人を介して、”イマダ モッケイタリエズ フタバ”(未だ木鶏(*2)たり得ず 双葉)という電報が打たれ、安岡氏は双葉山の連勝がとまったことを知りました。


安岡氏は山本五十六海軍大将や中華民国総統の蒋介石などとも親交があり、昭和の名宰 相とされる佐藤栄作首相から、中曽根康弘首相に至るまで、昭和歴代首相の指南役を務め、さらには三菱グループ、東京電力、住友グループ、近鉄グループ 等々、昭和を代表する多くの財界人に師と仰がれました。

 

佐藤栄作首相はその当時、ニクソン大統領との沖縄返還に関する会談で、安岡氏から得た助言によって、わずか20分の予定であった会談が1時間半にも及び、”核抜き本土並み返還” という約束を取り付けるのに成功しました。安岡氏の助言である、老子の ”戦いに勝ちては、喪礼を以って之におる (戦争に勝ったならば、これを喜ぶよりはむしろ、葬儀に臨んだ人のように悲しみをもって身を処すべきだ) ”という言葉がニクソン大統領にいたく感じ入ったからだそうです。


中曽根さんは首相になる前、保守傍流であるというレッテルをはがすために、吉田茂や 佐藤栄作という大物政治家から仰がれていた安岡氏に近づいたそうです。そして日米関係の悪化を云々されて退陣した鈴木善幸首相に代わって首相になった時 に、レーガン大統領との ”ロン・ヤス” の親しい関係を結べるようになる以前にやはり安岡氏から ”地のままで行けばよし” という助言を受けてレーガン大統領との交流が始まったといわれています。

 

 

*1 第二次小渕内閣時代、総理府総括政務次官を勤めた長峯基さんの証言によると、小渕首相とお酒を飲んでいる時に、首相は元号が平成となった時にまだ官房長官で、平成と書かれた色紙を持ってTVに出たことを思い出し、誰が平成と名付けたのか聞いたところ、その答えが安岡正篤氏であったそうです。

出展: 致知 2014年2月号

「木鶏クラブの活動は私のライフワークです」

元参議院議員 長峯基

 

 

*2 木鶏

本当に強い闘鶏はまるで木で作られた鶏のようであり、じっとしているだけで敵の闘鶏 が参ってしまうという意味です。木で作られた鶏には敵意がなく、敵意がないものに対してこれに反抗する敵もありません。無心で対することが物事を処理し、 困難を乗り越える最良の道であるという例えとして使われます。

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