フィリピン人から見た日本と日本人

世界遺産ビガン地区を救った高橋大尉
ルソン島の北部に位置する世界遺産「ビガン歴史都市 Historic Town of Vigan」(下写真)。スペイン統治下で商業・貿易の拠点として栄え、当時築かれたユニークな街並みが広がる。
 
太平洋戦争当時、フィリピン各地の街はアメリカ軍による爆撃を受け壊滅状態となったが、ビガンの街並みだけは奇跡的に戦禍を逃れた。これには、ある日本人将校の残した一つの行動が大きく関わっている。
 
当時ビガンには日本軍の高橋大尉率いる守備隊が駐屯していた。高橋大尉は現地でフィリピン女性アデラ・トレンティーノ(Adela Tolentino)と結婚し可愛い娘もいた。大尉は現地に溶け込み、地域住民の信頼も得て、ビガン市民と友好な関係を築いていた。
 
やがて戦況が悪化し、アメリカ軍の砲撃・爆撃がフィリピン各地の街を次々と破壊していくと、ビガンを守る高橋大尉の部隊にも撤退命令が下された。大尉は親交のあったビガンのドイツ人神父クレカンフ司教(Fr. Joseph Klecamf, The Parish Priest of Vigan)に妻子を託し、次のように懇願して街を去って行った。
 
「私はこの地で結婚した愛する妻、愛する娘を残して行かねばなりません。アメリカ軍の砲撃によって、家族と暮らしたこの美しいビガンの街が破壊されることのないよう、我らが撤退したことをアメリカ軍に伝えてください。」
 
高橋大尉の真摯な願いに心打たれたクレカンフ司教は、広場には大きな白旗を掲げ、まさに砲撃準備に入っていたアメリカ軍に日本軍が完全に撤退したことを伝えると、ビガンの街は寸前のところで砲撃をまぬかれ、無益な破壊が行われることもなく米軍に占領された。
 
高橋大尉の部隊はその後の戦いで全滅し、大尉は帰らぬ人となった。クレカンフ司教に託された妻子は戦火の中を無事生き延び、戦後はしばらく妻アデラの実家で暮らした後、マニラ方面へ移り住んで、以後消息は途絶えてしまった。
 
2001年、元ビガン市長秘書官のアントニオ・フロレンティノ氏によれば、高橋大尉の娘がビガンに訪れたという。フロレンティノ氏は滞在先を訪ねたが、彼女は既に去った後だった。風のうわさでは、2001年当時、妻アデラはその頃既に亡くなっており、2人の娘はマニラに暮らしているという。
 
世界遺産「ビガン歴史都市」は今日もその姿をとどめ、スペイン統治時代の面影を色濃く残し、現代の我々にとって貴重な文化遺産として、その存在を確かに保ち続けている。ビガン市が属するイロコス州知事サベリャーノ(Savellano)氏は、次のように述べて高橋大尉の価値ある行動を讃えている。
 
「ビガンの街は、彼ら日本人の『愛』によって救われたのです。」
 

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